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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)2044号 判決 1975年9月30日

控訴人・附帯被控訴人 鍵谷良一

右訴訟代理人弁護士 小林蝶一

同 永塚昇

同 川尻治雄

被控訴人・附帯控訴人 ティン・グロリア

右訴訟代理人弁護士 吉本英雄

同 松本博

同 森川廉

主文

一  原判決主文第二項1を次のとおり変更する。

1  控訴人兼附帯被控訴人は、被控訴人兼附帯控訴人に対し、昭和四三年四月一日から昭和四五年三月三一日まで一か月金八万七五〇〇円の割合による金員、昭和四五年四月一日から昭和四六年一月一七日まで一か月金一〇万五八〇〇円の割合による金員ならびに以上の各金員のうち昭和四三年四月一日から昭和四五年一二月末日までの分についてはその各月分金員に対するその各翌月一日から各支払ずみまで年五分の割合による金員及び昭和四六年一月一日から同年同月一七日までの分についてはその期間分金員に対する昭和四六年一月一八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、各支払え。

2  被控訴人兼附帯控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用中控訴人兼附帯被控訴人と被控訴人兼附帯控訴人間に生じた分は、第一、二審を通じてこれを一〇〇分し、その四五を控訴人兼附帯被控訴人の負担とし、その五五を被控訴人兼附帯控訴人の各負担とする。

三  本判決は、第一項1に限り仮に執行することができる。

事実

第一申立

一  本件控訴について

(一)  控訴人兼附帯被控訴人(以下単に控訴人という)

1 原判決中東京地方裁判所昭和四三年(ワ)第一五一三七号建物明渡請求事件(以下第二事件という)について被控訴人兼附帯控訴人(以下単に被控訴人という)の控訴人に対する請求を認容した部分を取消す。

2 被控訴人の請求を棄却する。

3 第二事件訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(二)  被控訴人

本件控訴を棄却する。

二  附帯控訴について

(一)  被控訴人

1 控訴人は被控訴人に対し、昭和四三年四月一日から昭和四六年一月一七日まで一か月金一二万円の割合による金員に関し、昭和四三年四月一日から昭和四五年一二月末日までの分につき、右各月分の金員に対するその各翌月一日から各支払ずみに至るまで年五分の割合の金員、昭和四六年一月一日から同月一七日までの分につきその期間分の金員に対する昭和四六年一月一八日から支払ずみに至るまで年五分の割合の金員を、支払え。

2 仮執行の宣言

(二)  控訴人

附帯控訴による被控訴人の当審における請求を棄却する。

第二事実上の主張ならびに証拠関係≪省略≫

理由

一  原判決別紙物件目録記載の土地・建物(以下本件土地・建物という)が被控訴人の所有であって、これについて昭和四三年三月二九日に控訴人との間に代金を二三五〇万円とする売買契約が成立し、控訴人がその翌日手付金三五〇万円を支払ったこと、しかし同年四月一〇日に控訴人が被控訴人に対し右売買契約を解除する旨の意思表示をしたことは、いずれも当事者間に争いがない。

そして、右契約解除の意思表示は、売買の目的物にかくれた瑕疵があり、買主である控訴人として、契約を結んだ目的を達することができず、有効に同契約を解除したものであると認められるが、その判断は、原判決書一四枚目表末行から同一七枚目表四行目中「は失効した」までの理由説示と同一であるから、これを引用する。

したがって、右契約解除により、本件土地・建物の所有権は、遡及的に被控訴人に復帰したといわなければならない。

二  次に、控訴人が昭和四三年四月一日から昭和四六年一月一七日まで本件建物を占有していたことは、当事者間に争いがない。

そこで、その占有権原について検討すると、先ず控訴人は、被控訴人から紛争解決までの間本件建物に入居することの許諾を受けていた旨主張し、当審における控訴人尋問の結果は右主張にそうものがあるが、右尋問の結果は、≪証拠省略≫に照らした易く措信し難く、他に右主張事実を認めるに足る証拠はない。

次に、≪証拠省略≫を総合すると、前示売買契約において本件建物の引渡は昭和四三年四月一〇日までに残代金の支払と同時に履行さるべきことが明約されていたにもかかわらず、控訴人は、本件建物の鍵を預っていた豊田ひでに対し、内部の掃除をしたり電気、水道、ガス等の設備の状況の点検をしたいから一時建物の鍵を貸してほしいと申し入れて鍵を受け取ったうえ、右残代金の支払もなく被控訴人の意に反してそのまま本件建物に入居し、前示昭和四三年四月一日から昭和四六年一月一七日までの間本件建物を占有した事実が認められ(る。)≪証拠判断省略≫すると、控訴人は、被控訴人に対抗しうる何の権原もなく本件建物を占有し、かつ右認定の状況からすれば、右無権原の事実を知りながら右占有を開始継続したと推認されるから、同人の占有は、民法二九五条二項にいう「不法行為によって始まり」、そしてその占有期間中被控訴人の本件建物所有権を侵害し、これによって同人に対し同建物の賃料相当額の損害を与えたものである。

そこで、右賃料相当額を検討すると、この点に関する資料として当審における鑑定人一瀬忠の鑑定の結果が存する。≪証拠省略≫によれば、被控訴人は、本件建物を、初めは売らずに貸すつもりであったが、その場合には八〇万円程の費用をかけて造作を整備しペンキの塗りかえもしたうえで、月額一二万円位の賃料で貸したいと思っていたのであるが、結局本件建物を当時の有姿のまま控訴人に売却する契約をしたものであることが認められ、右事実と、≪証拠省略≫を総合すると、当時本件建物の状況は、これを他に賃貸する場合やはり八〇万円程度の費用をもって整備修理することを要する客観的状況にあったものと認められるが、前記鑑定人の鑑定の結果は、この点を捨象していること、また、≪証拠省略≫によれば、本件建物中の物置は粗末なものでありその前面には自動車が一台入る程度の小さなガレージが附設されていたことが認められるのであるが、前記鑑定人の鑑定結果は、既にこれが除却されてしまって存在していないことを理由にこれを捨象していることが明らかである。以上の二点は、それぞれ本件建物の使用価値を判定する際の積極的な要素と消極的な要素となるものであり、他に特段の資料のない本件においては、右二要素は前記認定の程度態様に照らし彼此相殺して、建物の主構造・本体・立地条件等に着眼してなされた前記鑑定人の鑑定の結果に依拠して賃料相当損害金の額を判定するのが相当である。ところで、同鑑定は、本件建物の適正賃料額を、(い)昭和四三年四月一日から昭和四五年三月三一日までは月額八万円、(ろ)昭和四五年四月一日から昭和四六年一月一七日までは月額八万八〇〇〇円と結論するのであるが、前者については賃料のほかに礼金、敷金としてそれぞれ家賃の各二か月分が支払われるべきこと、後者についても更新料として家賃の一か月分が支払われるべきことを想定しているのであって、これらのものは正常な賃貸借契約関係の存在を前提としているのであるから、不法占有に基く使用料相当損害金算定の際には、右礼金、更新料は各月分賃料の中に平均して割りつけ、敷金はその運用益を算入するのが相当であり、この操作を施したうえで右鑑定の結果に依拠すれば、前者の期間中の使用料相当損害金は月額八万七五〇〇円、後者のそれは月額一〇万五八〇〇円と認めるのが相当である。

かくして、控訴人は、前示不法占有期間中日々右に相当する損害を被控訴人に対し与えていたものであり、日々その履行期が到来していたと考えられるから、被控訴人が当審において各月分にまとめた使用料相当損害金に対し、その各翌月一日から(ただし、昭和四六年一月分については、同月一八日から)支払ずみまで民事法定利率による遅延損害金を求めるのは、理由がある。

三  すると、控訴人は被控訴人に対し、本件主文第一項1に掲げたとおりの支払をなすべき義務があり、被控訴人の一審請求(基本の損害金請求)を全部認容した原判決は、右の限度で相当であるが、その限度を超える部分は不相当として取消しを免がれず、また被控訴人が当審で拡張した請求(遅延損害金請求)も基本の損害金請求の認容・不認容に相応して認容・不認容の各部分が生ずるので、これらを明かにするため、原判決を主文第一項のとおり変更するものとする。

よって、訴訟費用につき各当事者の勝訴敗訴の度合いを考慮して各負担部分を定めたうえ、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 豊水道祐 裁判官 舘忠彦 安井章)

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